K子は改札前に現れた。その姿は美しいと言わざるを得なかった。
「遅れてすいません。行きましょ」
冗談みたいだが、印象派を思わせるような光を彼女は放っているようだった。
明らかにラインを強調するような、そんな服だった。「遅れてすいません。行きましょ」
冗談みたいだが、印象派を思わせるような光を彼女は放っているようだった。
必要以上に誇示された笑顔が気になったが、人間はそこまで賢くなかった。
僕は彼女との距離感や温度を探りながら、話題をお気に入りの鞄から取り出していった。
駅から映画館は予想以上に近かった。
助走が足りないくらいだった。
「なんか飲み物買おうか」
「そうですね」
僕はキリンレモンを選び、彼女は爽健美茶を選んだ。
席はネットで事前に予約していたので、悪くない場所だった。
着くと、近くに日焼けした品のないカップルが腰を掛けていた。
僕は荷物を彼女に預けるとすぐトイレへ向かった。
僕の頭の中では前回の食事の時のK子の台詞がいくつか再生された。
「そうですねぇ、友達にはよく変わってるって言われます笑」
「Aさんて優しいお方なんですね」
「私ほんと機械にめっぽう弱くて」
それらの会話をもとに、僕は無意識にK子のカテゴリーを探していた。
それらの会話をもとに、僕は無意識にK子のカテゴリーを探していた。
鏡を見る。つけてきたワックスが髪型を少し不自然にしていた。
水は生暖かく、汗ばんだ手をきれいにしてくれた。
「私、この映画ずっと観てみたかったんです」
K子は僕がトイレにいってる間にいじっていたケータイを鞄にしまい、僕の目を見つめてこう言った。
「良かったよ。僕の周りが絶賛してたんだ」
映画は一人で観るのが一番良いに決まってる。良い映画に他人の感想なんていらなかった。
「眠いんですか笑?」
「いや、ちょっと目が乾いたみたいで」
座席に腰をかけた途端に眠気が襲ってきた。
予告の映画で観客が一斉に笑ったシーンがあった。
僕はその笑いがさめた後の静けさが好きだった。
静けさの中に、人の呼吸や咳払いや人々のリアルな仕草が感じられるからだ。
彼女も熱心に予告を観ていた。
最近の映画は演技もできないようなイケメン俳優ばかりで面白みがないと思った。
どれもテレビで観るような顔ぶればかりだ。
あっという間に予告は終了し、本編が始まった。
その映画は、実話を元にしたヒューマンドラマだった。
途中から僕は映画を見ることを放棄して、
彼女と僕はつきあうんだろうかとか、
つきあったら、どんな日常になるんだろうかなんてことばかりを考えていた。
後で感想に困らない程度にスクリーンに目をやりつつ、
僕はくだらないことばかり考えていた。
彼女とのセックスも想像してみた。
男というのはホントにうまく造られている。
映画の内容は思ったより楽しいものではなかった。
映画が終わると、彼女はこっちを見て笑顔で何も言わずに大きく伸びをした。
「行こうか」
炭酸の抜けきったキリンレモンを飲み干し、
列が進むのを待った。
A氏は全く楽しくなかった。どう楽しめばいいのか教えてほしいくらいだった。
「私ちょっとお手洗い行ってきますね」
時計を見ると、16時45分。
地獄はいつまで続くんだ。
地獄はいつまで続くんだ。
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