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2013年4月21日日曜日

模倣⑨



良い歌。

A氏の平凡な日常⑪

A氏は、お盆休みで丁度帰省していた中学の同級生と会っていた。

田中(男)と西野(女)。




「ごめん、ちょっとトイレ」
「また〜?」


「失礼しまーす!ほっけの塩焼きと、だし玉子でーす」
「はい、どーもー」


「で、なんだっけ?」
「いやぁだから、なんであんたが結婚できないのかって話じゃない」
「あぁそうだそうだ」
「私だってさ、正直30近づいてきてさ、焦ったわよ?で、そんな時出会ったのが今の彼なのよ」「正直最初は彼に対して全然ときめかなかったわよ?だってその前の恋愛がもう常にキュンキュンして・・・」

A氏はだし玉子に大根おろしをのせながら、頷き、聴いているふりをしていた。

「でもね、今の彼がね、私にこう言ったのよ。「おじいちゃんとおばあちゃんになっても/」

西野は、何歳になっても乙女だった。

「それ聞いた時に私、確信したの」「あ、この人でいいんだ、って/」

A氏はすでに内容についていけてなかったが、西野は止まらなかった。

「だから、そういうもんなのよ、結婚て」「そりゃあね、実際/」



鮮やかに恋してにんじゃりばんばん♪なんだかにんじゃりばんばん♪




(あ。)



恋してにんじゃりばんばん♪愛してにんじゃりばんばん♪


「でもね、それじゃだめなのよやっぱり」「私もね、そういうところ無駄に臆病だったりしたけど/」


にんにんにん♪君だけだから♪


その曲は、K子が口ずさんでいた曲だった。
A氏は原曲を初めて聴いた。

「子供のこととかも、やっぱり/」


手を伸ばしても さわれない光のようだから♪


A氏はいつまでも聴いていたい気持ちだった。
それは、西野の話ではなく、にんじゃりばんばんの方だった。


飛んでけにんじゃりばんばん♪


「私って、何歳になっても子供なのよね〜結局、結婚して/」

西野の話は、雑音と化し、
僕は曲の世界に浸っていた。
上機嫌に口ずさむK子も回想された。

あれは、いつだっただろうか。
秋な気がする。

「本当、私って変わってないわよね〜昔からさ〜だってこの前もさぁ/」


リン♪リン♪リン♪鳴らないメロディー♪


K子と終わって、
オキトシンやドーパミンが不足していた状態だったのかもしれない。
そこに、その楽曲はなんともいえない安心感を与えてくれたんだと、僕は思っている。

「いやー、ほんと、私みんなに迷惑かけてたわ」「悪いとは思ってるんだけどね」

曲が終わって、
西野のコトバだけが残った。


「あざやかに、とんでけにんじゃりばんばん♪ねんねけにんじゃりばんばん♪ふんふんふん。。。」


「ん?なに歌ってんのよ?」
「あぁ、ごめん」

2013年4月13日土曜日

とある精神科にて。


「これ、全部自分でやったの?」
「・・・はい、実感が、欲しくて」
「・・・実感?」
「温かい血が出てきて、あぁ僕生きてるんだ、って」

「Aさん、今度からリーゼっていう新しいのも処方しておきますね」
「先生、そうやって僕を薬漬けにして、金を巻き上げようとしてるんですよね」


「違うよ。最近はそういう医者もいるみたいだけどね」「試してみて嫌だったら言ってくれればいいから」

「変なこと言ってすいません」
「いいんだよ。たしかに薬多いよね、減らす?」


「ほんと、すいません」



「最近、すべての関係に利害が絡んでる気がしちゃうんです」
「利害?」
「みんな、自分の利益を最大化しようとしてるんです。僕も先生も。」
「パレート最適じゃないと?」
「パレート最適かもしれないし、そうでないかもしれない」「人間はそこまで完全なものじゃなくて、無意味な感情とかそういったものにある種されていて、不完全な存在だと思ってたんです」
「不完全ではなかった?」
「いや、不完全でした」「でも、その不完全な中でもいくつかの原理に従って完全を目指そうとしていました」
「原理?」
「たとえば利害関係です」
「うん」
「僕らは完全なハードではないけれど、はっきりとしたシステムがあるんです」「僕が温もりを求めてしまうのはそこにあるんだと思います」



「そんなに難しく考えなくていいんだよ」「僕らは、生命体の1つで、ぜんぜん合理的なんかじゃないんだ」「感情の赴くままにすればいいんだ」
「感情に赴いたら、こういう傷が増えていくんです」「僕だって、親父が悲しむのは分かってるんです」
「自分の感情に従うことは大切だ。けれど、自分に傷をつけることは別だよ」
「先生の言っていることが矛盾しすぎていて、全く理解できません」


「そう、僕も不完全なんだ」「そうだ、水泳の方はまだ続けてる?」
「市民プールの管理の人が、いつも僕を睨んでくるんです」
「違うよ、気のせいだよ」「水泳した日はどうだろ?気分とか
「次の日起きるのが辛くなるくらいです」「寝つきは変わりません」
「そうか、朝辛いか笑」
「僕、頭に人の何倍ものドーパミンとか、脳内麻薬が流れるんです」「それで寝れなくなるし、全てに過敏なんです」
「なんで分かるの?笑」
「たまに頭にピシーって電流が流れるのが分かるんです
「みんな、ピシーってなってるかもしれないよ?笑」



「じゃあ、次の予約も入ってるから、そろそろお開きにしようか」
「はい」
「今日、僕と話して少しは気持ちが楽になったりはしたかな?」
「いいえ、とくに」
「そうか。僕には何でも話しておくれよ」
「どうでしょう、気づいたらナッシュ均衡に落ち着いてるかもしれませんね、お互いに気を付けましょう」
「また待ってるよ」



「先生、Aさん随分長かったですね」
「彼とは、いつも長いよ」
「へー、そうなんですかー」
「そういえば、彼には今後ラモも処方しようと思ってる」「申請書類、用意しといてくれるかな」

2013年4月9日火曜日


華が さいていたよ
 はな が
咲いたよ
それは サク はずのない
誰も 見たことのない 華が
はなが さいていたよ



2013年4月8日月曜日

A氏の平凡な日常⑩

K子がイタリアに行っていたのは2週間だった。

旅行先の写真が添付されたメールが数日に一度届いたが、
見ていて気分の良いものではなかった。


A氏は連日の残業により、体が重くなっていくのを感じていた。


気分も明るくない。こんなときは運動が解決になることを僕は知ってる。



金曜の夜に、早めに寝て、
次の日、昔よく参加していた会社のテニスチームの練習に行くことにした。


A氏の会社は財閥系金融機関であり、その財閥系の会社数社合同のテニスチームだった。

中には全国大会に名を連ねたものもいたが、チーム自体はただの男女が群れる場でしかなかった。


A氏はその中でも、本気でテニスに向き合う珍しい存在だった。
最初のうちは男女交流を楽しんでいたが、もの足らなくなり、本気のテニスに没頭した。

さすがに全国レベルの人々には敵わなかったが、時折そんな彼らに度肝を抜かせるショットを打てた瞬間が好きだった。




朝御飯を食べ、自転車で練習上まで向かった。運動不足のせいか、少し早めに自転車をこいだだけで息があがってしまった。
A氏は良いウォーミングアップだ、とスピードをさらに早めた。



その日、練習場には明らかに人が少なかった。どうやら今日は練習が中止らしく、僕を含めそのメールを見ていない人々が間違って来てしまったのだ

しばらくすると、同期の前田が現れた。

こちらに気づいたが、とても罰が悪そうだった。
それは恐らく隣に新入社員の娘を連れていたからだ。

前田はこの練習を管理している責任者だった。たいしてうまくはないが、周りからはノリが良いとされるタイプだった。

練習を管理し、メーリスを回している前田本人が練習のない日に誤って来てしまうということはありえなかった。

僕はなんとなく嫌なことを考えていた。それは邪推かもしれなかった。


前田は今月に彼女が妊娠したことが発覚した。
そして、籍を入れることにしたらしい。前田は飲み会の席で、できちゃった結婚をしたことをぶっちゃけたが、それはフツーとは違っていた。

自分が相手の妊娠にも動じず、笑顔で「一緒に育てていこう」と言ったんだと、自ら語っていた。

前田はできちゃった結婚をできるだけ美化し、格好つけていた。


A氏にとってはそれに違和感を感じられずにはいられなかった。
彼は日頃から女遊びに夢中であったし、彼に自分を美化する習性があることも知っていたからだ。



A氏はそうやって、いつまでも他者の欠陥を受け入れることはなかった。
それが彼を苦しめていたかもしれないし、彼を安定させていたかもしれない。




A氏は間違えて来てしまった人たちとラリーを始め、嫌気をボールに叩きつけた。


前田は新入社員のFちゃんと親しい様子でラリーを続けていた。

前田はA氏を気に入ってはいなかった。
仕事においても外見にもおいても、前田はA氏に劣等感を感じていた。前田の努力はA氏の前では報われることは少なかった。


ベンチで休憩していると、前田とFちゃんが自販機で買ったポカリスエットとネクターを持って近寄ってきた。

「A、相変わらず飛ばしてるなぁ笑」
「もう疲れちゃったよ」
「Aさん、うまいですねー」
「Fさんもうまいじゃん」
「私は全然ですよー」

「Fちゃん、ポカリいる?ネクターじゃ甘いでしょ?」

A氏もネクターだった。

しかし、前田がA氏にポカリを勧めることはなかった。

前田はその事に気づいたが、あえて触れなかった。

「あ、Aさんもネクターだー笑」

Fちゃんが何かを続けようとしたが、

「そういえば、お前あの彼女とはうまくいってんのかよ?」

前田は不自然に遮った。

「うん。なんかイタリア行っちゃった」
「なんだよそれ、おいてけぼりかよ笑」
「いいなー、イタリアー」
「イタリア人と浮気してんじゃねーの笑」

できちゃった結婚から二週間後に新人の女の子と楽しくテニスしている男はなかなかユーモアがあった。

「イタリア人、かっこいいしね」

僕はあえて否定はしなかった。

「冗談だよ、そこは否定しとけよ笑」
「Aさんて面白い人なんですね」
「そうだよ。僕は面白い人だよ」

僕は調子に乗ってみた。

Fちゃんは笑っていた。
前田は笑っていなかった。


その後も、A氏はテニスを続けた。
無理な動きをしすぎたせいか、足を中心に筋肉痛が襲ってきた。


前田は頻繁にこうして女性を車でテニスまで送り迎えしていた。



前田という男は、一般的に「肉食」と呼ばれる男性だった。
A氏は「肉食」であることに対しては嫌悪を示さなかったが、
男女であからさまに態度を変えられるのは不快に感じていた。




それでも、A氏はこの世の原理を冷静に把握していた。


僕は分かってるんだ。
最後に生き残るのは前田みたいなやつなんだ。悲しいけど、そうなんだ。

A氏は家に戻り、靴を脱いだ。
夕日が眩しく差し込み、靴下には砂利が混じり、不快だった。

2013年4月4日木曜日

結婚て拷問だと思ってたんです。でも、違ったんです、食物連鎖でした。

題名は最近見終わった、ドラマ「最高の離婚」のセリフから引用。

尾野さんが好きすぎて、死ぬかと思った。


知り合いが、一人、また一人と、既婚者側に移動していきます。


それは、ピッチャーから放たれたボールみたいに、
ゆっくりコマ送りで近づいてきたと思ったら、
気づいたらバットを振ってる様な感覚なのかもしれません。


振り切った瞬間には死を迎えてて、
あ、空振りしてたんだ。。。みたいな。


僕は結婚というものにとても興味があります。
でもそれは恋愛の延長にあるものではなくて、
人生の第何章かに現れてくる「経験」として、興味があるのです。

若くして結婚を決断した男に、
「もっと遊べば良いのに」
とかいった言葉をかける男ども。
実に浅はかであります。
恋愛の延長としてしかとらえていないのでしょう。




いやぁしかし、久々に面白いドラマだった。














日常は嘘に溢れています。
ウェブ上でくらい、思いきり深呼吸がしたいのです。僕は。