自己紹介

自分の写真
tokyo, Japan
パソコンとお香があればだいたい幸せです。

2013年10月22日火曜日

走る、アデルノ。③

時連なりし、そして一念に回帰せし。

僕の1日は不快で始まるのさ。

朝が来て、起きることは、1日で最も苦痛かもしれないね。

次に苦痛なのは、1日中靴下を履いていなければならないことだな。

そうだ、それに違いない。


Pガチャ。P

ドアを明けた瞬間に外の風が一気に部屋の中に流れ込んだ。

そして、眩しい朝日。
切なさと、哀しさと、少しの希望が立ちこめていたんだ。


マリアも、こんな僕みたいな感受性を持ち合わせてたりするんだろうか。
白い息に嬉しくなってみたり、冷えきった指先を首で温める喜びだったりを。


アデルノはいつもよりどんどん加速していった。
しかし、途中で転びかけて、焦ってはいけないと急激に平常心を保とうとする。

その日、アデルノは突き動かしていたものは、
眩しい朝日だったのか、
詰まる所の自己肯定感だったか、
絶対的な孤独だったか、
将又、マリアであったか。

走っていると、色んな事が頭を駆け巡る。無意識に。
それはおそらく単調なリズムと単調な作業から来る、脳の初期プログラムなんだろう。

/僕はこうして毎朝走っているけど、僕は走る事が好きなんだなぁ。/いや、走る事を続けてきたから、勝手に頭では好きだと勘違いしてしまっているのかもしれない。/好きだから続けられたのではなく、続けたから好きになったのではと。/この2種類の対立は、帰納法と演鐸法というものか。/そうか、宗教が演鐸法で、科学は帰納法なんだなぁ/もしかしたらこれは世紀の大発見かもしれないなぁ。/


遠くから、一人の女性が近づいて来た。
カトリーヌだった。
隣にマリアの姿はなかった。


アデルノはカトリーヌに関しては特に何の感情も抱いていなかったと思う。
だから、自然と目が合ったし、自然と会話になった。
「おはようございます」
「あぁ、どうも」
「毎朝、
「え?」
走られてるんですか?」
「あ、あぁ、そうですね」

アデルノはその場でジョギングを続けた。
それは、長くは喋りませんということを示していたかもしれなかった。
そんなことを平気にしてしまうくらい、アデルノはカトリーヌがどうでも良かった。

無関心以上に冷酷な態度はこの世にあるんだろうか。

「今日はとても寒いですね」
「うん、風が強いね」

次の瞬間にアデルノは「いつも隣にいる彼女は今日は?」と言いそうになった。
アデルノは「じゃ」と言ってまた走り出した。

僕がカトリーヌの立場で、
話も早々に「いつも隣にいる彼女は?」と言われたら、
それは「お前なんかどうでもいい」と言われるのと同じことじゃないか。
女心とかそんなものではなく、
存在を否定してしまうところだった。

僕は全く、なんて迂闊なやつなんだ。

アデルノはしばしば自分を責めることがあったが、
そこに答はなかったし、とても生産的とは思えなかった。
自分が悪いんだという問い詰めの先にゴールはなく、
ただ罪悪感に苛まれるだけだったのだ。

その罪悪感こそが、彼が自身を救う唯一の方法だったのかもしれない。
僕は悪者だ。と。その先に踏み込んでくるものはいないから。
自分を底辺まで落とすことで、これ以上に堕ちる事はないという安心感を。


ッタッタッタッ

どこまで走り続けていっても、この罪悪感は拭われないのだろうなぁ。
根本的なもんなのだなぁ。

急激にスピードを上げて、アデルノは町をかけていった。
止まらずに、速く、速く。


公園の近くで、アデルノは柵に手をついた。

ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ、う、ハァハァハァ

心臓がバクバクしてしまった。

ズクンズクン、ズクン

ハァハァハァハァハァハァハァハァ、く、ハァハァハァ

苦しい。

ズクン、ズクン

ハァハァハァ、ハァハァ、ハァハァハァ

あぁ、そうか、

ハァハァ、ハァ

これもか、はは。

ハァ、ハァ、ハァ