自己紹介

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tokyo, Japan
パソコンとお香があればだいたい幸せです。

2012年8月30日木曜日

A氏の平凡な日常④

花火は一斉に打上げられてスタートした。

「きれぇ。。。」

たしかにキレイだった。
暗闇に光が飛び散り、街中を照らしていた。
川、電車、人々の群れ、月、、、それらに花火が加わることで夏の風景が完成した。

「私、あの、落ちていくのが好きなの」

K子は金色の花火を指差して、そう言った。
花火は止まることなく、打ち上がり続けた。

「あれ、ドラえもんじゃない?笑」

醜いドラえもんの花火を見て、K子はとても嬉しそうだった。
彼女の発言に何らかの意図があったとしても、僕はどうでも良かった。
そのうち彼女はケータイを取り出して、花火を取り出した。

「全然うまく取れないんだけどー苦笑」

「花火は撮るもんじゃない、目に焼き付けるもんだよ」
そう言いかけたが、未来を想像して発言を避けた。僕はニッコリ笑った。

A氏は花火が好きではなかったが、その日の花火は鮮やかで、おそらく忘れられないものになりそうだった。

「花火はこのくらいの距離がちょうどいいね」
「そうね、ほんと急いで良かった」


30分ほどすると、A氏はすっかり飽きてしまった。
K子は黙って夢中で眺めているようだった。
しかし、明らかに最初より少し飽きているようだった。


A氏は沈黙を愛した。
意図的に沈黙をすることさえあった。
距離が近づくのに言葉は不要なんだということが
彼が生きてきた中で学んだ数少ない真理の一つであった。


気づけば、K子はA氏に身を寄せていた。
普通の女性が、当たり前のように行う仕草をK子は自然に行った。
A氏は彼女の体温を浴衣越しに感じていた。
しかし、そんな動作の一つでさえ、抵抗しようという意志と
圧倒的な反発心が喉の奥から。





彼女は僕の何に好意を抱いているんだろうか。
それは人間性なのだろうか。
年収だろうか、ステータスだろうか。
実際にK子はA氏の核心や本質には迫ろうとしなかった。

距離をとるというよりは、
興味がない気がした。


その疑念が、彼に反発心を起こした。
私は今はそう解釈している。


すごく満たされているようで、
逃れたい一心だった。
ただ、逃れることはできなかった。

事はそんなに単純ではないのだ。
少なくとも彼の中では。

2012年8月26日日曜日

A氏の平凡な日常③

「あ、ごめん、Aだけど、少し遅れると思う」「駅じゃなくて、家まで車で迎えに行くから待ってて」
「大丈夫ですか?」
「お客さんの予定が急に変更になっちゃって、ごめんね、終わったらすぐ連絡するよ」

土曜日だったが、A氏には仕事が入っていた。
仕事がある方がむしろ気が紛れて彼には良かったのかもしれない。
花火大会なんてのは、行きたいわけがないのだから。


顧客との面談が終わると、笑顔で握手を交わし、K子の家まで急いで車を走らせた。

僕らはひと月前から、いわば「付き合っている」状態になったのだった。


お世辞にも僕とK子は相性が良いとは言えなかった。
しかし、K子が僕に少なからず好意を抱いているという事実と、悪い人ではなさそうだという直感が判断を促した。

A氏の決断はしばしば理にかなっていないことが多くあった。
人間は感情で動く不合理な生き物かもしれないが、A氏はそれが顕著だった。
スプーンを買いに行ったはずだったのに、急にフォークが欲しくなって、帰ってからスプーンがなくて困るような、そんなことが日常茶飯事だった。
彼はそのことに気づいてはいるが、なぜ頻繁にそうなるのかは分かっていなかった。

今回の彼の判断が正解かどうかは全く分からないが、
彼自身は一過性の高揚感を味わったはずであろう。


「あ、もしもし僕だけど、今終わって向かってるから」
「あと20分くらいかな」

車内ではglobeの曲がかかっていた。


花火は好きじゃなかった。
はっきり言ってデートの場所なんんてどこだっていい。
気苦労はどこだって消えないのだから。

歩道には浴衣を着たカップルが何組か歩いていた。
朝から雨が降り、中止かと思われたが、雨はすっかり止んでいた。


「あ、もしもし」「もうマンションの下に着いたよ」「えーと、黒のプリウス」「はーい、じゃ待ってまーす」


助手席に置いていた雑誌をどけて、さっきまで面談をしていた顧客にメールを打った。

A氏はiPodのアーティストをグルグル回し、tahiti80で止めた。

コンコン

マンションの入り口から出てきたK子が車を軽くノックした。
浴衣を着ていた。いつもと印象が違ったので少し驚いた。


「お待たせー」
「浴衣、似合うね」
「ありがと、白にしてみたの」
「うん、似合ってる」

2012年8月22日水曜日

A氏の平凡な日常②

K子は改札前に現れた。その姿は美しいと言わざるを得なかった。

「遅れてすいません。行きましょ」

冗談みたいだが、印象派を思わせるような光を彼女は放っているようだった。
明らかにラインを強調するような、そんな服だった。
必要以上に誇示された笑顔が気になったが、人間はそこまで賢くなかった。

僕は彼女との距離感や温度を探りながら、話題をお気に入りの鞄から取り出していった。
駅から映画館は予想以上に近かった。


助走が足りないくらいだった。

「なんか飲み物買おうか」

「そうですね」

僕はキリンレモンを選び、彼女は爽健美茶を選んだ。
席はネットで事前に予約していたので、悪くない場所だった。
着くと、近くに日焼けした品のないカップルが腰を掛けていた。
僕は荷物を彼女に預けるとすぐトイレへ向かった。

僕の頭の中では前回の食事の時のK子の台詞がいくつか再生された


「そうですねぇ、友達にはよく変わってるって言われます笑」
「Aさんて優しいお方なんですね」
「私ほんと機械にめっぽう弱くて」

それらの会話をもとに、僕は無意識にK子のカテゴリーを探していた。

鏡を見る。つけてきたワックスが髪型を少し不自然にしていた。
水は生暖かく、汗ばんだ手をきれいにしてくれた。

「私、この映画ずっと観てみたかったんです」

K子は僕がトイレにいってる間にいじっていたケータイを鞄にしまい、僕の目を見つめてこう言った。

「良かったよ。僕の周りが絶賛してたんだ」

映画は一人で観るのが一番良いに決まってる。良い映画に他人の感想なんていらなかった。

「眠いんですか笑?」
「いや、ちょっと目が乾いたみたいで」

座席に腰をかけた途端に眠気が襲ってきた。
予告の映画で観客が一斉に笑ったシーンがあった。
僕はその笑いがさめた後の静けさが好きだった。
静けさの中に、人の呼吸や咳払いや人々のリアルな仕草が感じられるからだ。
彼女も熱心に予告を観ていた。

最近の映画は演技もできないようなイケメン俳優ばかりで面白みがないと思った。
どれもテレビで観るような顔ぶればかりだ。

あっという間に予告は終了し、本編が始まった。
その映画は、実話を元にしたヒューマンドラマだった。


途中から僕は映画を見ることを放棄して、
彼女と僕はつきあうんだろうかとか、
つきあったら、どんな日常になるんだろうかなんてことばかりを考えていた。

後で感想に困らない程度にスクリーンに目をやりつつ、
僕はくだらないことばかり考えていた。
彼女とのセックスも想像してみた。
男というのはホントにうまく造られている。


映画の内容は思ったより楽しいものではなかった。

映画が終わると、彼女はこっちを見て笑顔で何も言わずに大きく伸びをした。

「行こうか」

炭酸の抜けきったキリンレモンを飲み干し、
列が進むのを待った。


A氏は全く楽しくなかった。どう楽しめばいいのか教えてほしいくらいだった。

「私ちょっとお手洗い行ってきますね」


時計を見ると、16時45分。
地獄はいつまで続くんだ。


2012年8月18日土曜日

A氏の平凡な日常①



昼頃、A氏は目覚めた。
太陽の日差しがとても眩しかった。
ライトの点滅するケータイを取ると、通販サイトからの広告メールなどが来ていた。
それらを既読にし、またしばらくベッドで目を閉じた。
昨晩のハイボールが少しの頭痛を催している気がした。


A氏は大手金融企業に勤める32歳のサラリーマンである。
役職こそないが、そこそこな収入で十分に家族を養えるような収入を得ていた。
しかし、彼に家族はいなかった。
彼自身、家族を望んだりもしたが、彼の気難しい性格(少なくとも本人はそう思っていた)が結婚を遠ざけているようだった。


彼はベッドから起き上がると、洗濯物をまとめ、洗濯機を回した。
テレビをつけ、菓子パンをかじりながら、チャンネルを回した。
ひとまず好きな芸人が出演しているバラエティでチャンネルを止めた。
ゲストに好きなアイドルが出ていたというのも少なからずあった。


CM中にケータイがメールを受信した。
それは見知らぬ宛先からであった。


「昨日ご一緒させてもらった、K子です(絵文字)
昨日はありがとうございました(絵文字)
Aさんとはあんまりお話できなかったので、もしよかったらまたお会いしたいです(絵文字)」


A氏は昨日、同僚との合コンに参加していた。
頻繁にそういった類のものに参加しているわけではないが、
A氏は前よりも少し積極的になっていた。

その合コンではK子とA氏とほとんど話さなかった。

A氏のK子の印象は、そんなに悪くなかった。
しかし、正直言って惹かれるようなものでもなかった。


A氏は人間観察をする癖があった。
A氏の中で人種をある程度感覚的にカテゴライズしていた。
例外が現れると、カテゴリーを増やしていった。
A氏は人付き合いがあまり上手な方ではなかったので、
自分なりにこういった工夫をして、気苦労を減らしていた。

K子はそういう意味で未分類の人種だった。
おおよその見当はつくが、まだ分類してしまうには早すぎた。


K子からのメールは嬉しいものだったが、A氏にとっては気苦労の方が大きかった。

A氏は過去に何人かの女性と交際したことがあったが、
その都度彼は気苦労していた。付き合っている最中は気苦労に感じなくとも、終えてみるとそれは気苦労だった。
それは別に女性関係に限ったことではなく、人生全般にA氏の気苦労は耐えなかった。
それはまるで、人生の多くを自殺を留まることに費やしてしまうようなカフカのようだった。

A氏はそんな自分を客観的に認識しているつもりであった。
そして、悲観的ではなかったが変えようという気があった。
なぜなら、このままでは結婚でさえろくに出来ないと危機感を抱いていたからだ。
A氏は結婚については興味がなかったが、子供には興味があった。
自分の子供が、自分の気苦労を軽減させてくれる唯一の存在になりうるのではないかと思っていた。


A氏はそういったごちゃごちゃした思考を振り払い、
K子に返信した。そのメールは今度ふたりで食事に行きましょうという旨のものだった。


洗濯機がピーと終了の合図を鳴らした。
その時A氏は脱ぎっぱなしの靴下を入れ忘れたことに気づいた。

2012年8月17日金曜日

朦朧意識

お久しぶりです。

模倣と不可解な文章の連続に疲弊されていると思うので、
たまにはOLみたいな記事にします。




(iMacの話)
iMacを購入しました。
社会人になってから、ほとんど高い買い物をしていませんでしたが、
必要だと感じたので購入しました。

なぜウィンドウがイスと反対側に向いているかというと、
テレビ代わりに使ったりしているからです。



(免許の話)
ようやく取りました。


(映画の話)
「dot the i」という映画を知り合いに勧められていたので、
借りてみました。
見る価値はありました。


(食べ物の話)
普通の日は夕食にスーパーで半額になったお寿司や刺身ばかり食べています。
そろそろ飽きてきました。
バラエティ豊かな料理を毎日裸エプロンで作ってくれる女性が欲しいです。



2012年8月2日木曜日

とある教室にて

キーンコーンカーンコーン

「Aさん」
「な、なに?」
「僕はあなたのことが好きだ」
「え?」
「僕はあなたのことが好きなんだ」
「そんなに私と話したことあったっけ?」
「いや、少し話しただけで僕には分かる、あなたの魅力が」
「いちいち絶句しそうになるわね」
「僕は自分が今どういうことをしているか理解しているし、それによって君が僕をどういう風にとらえるかというおおよその予測はついているつもりだ」
「。。。わかったから、そこをもうどいてよ」「私お弁当食べて、レポートやんなきゃいけないんだから」
「返事が欲しい」
「返事?」
「僕が君を好きだということに対する返事」

「んー、そうね、残念だけど、私はBのことなんとも思ってないわ」
「、、、、そう言われると思っていた」
「なに?罰ゲームなの?」
「違う、罰ゲームなんかじゃない」「真の気持ちです」

「次、あなたがこういうことを犯さないために、アドバイスしてあげるわ」
「次なんかないよ、これは最初で最後なんだから」
「最後だとしてもアドバイスするわ」「まずね、ストレートに告白するのは良いと思うけど、度が過ぎるわ」「昼休みになった瞬間に大して仲も良くないクラスメイトが机の前に現れて、なんの前フリもなく告白するなんて」
「僕が生きてるのは「今」なんだ」「君に告白しようと思った瞬間に告白しなければ意味がないんだ」
「、、、それはあなたの哲学でしょ」「女の子と付き合いたいなら、段階を踏んで近づかなきゃ」
「知ってるよ、何気ない会話をして、笑顔で話して、それとない理由をつけて連絡先を聞いて、くだらないメールをして、電話をして、デートに誘ったりして、相手の気持ち探って、駆け引きして、女友達に相談したりして、告白するんだろ?」
「なによ、分かってんじゃないの」
「これらを企んで近づくことに何の意味があるんだ?」
「意味?意味というか、人は段階を踏まないと他人を受け入れられないんだから仕方ないでしょ」
「僕は何も君に受け入れられようと思って告白したわけじゃない」「見返りなんか何も求めていやしない」「情だ。ただこの感情を伝えただけだ」
「。。。。」「今ので不覚にも少しときめきそうになったわ」
「僕は、日常に、いや人生に絶望しかけている」「ただし、君という存在を除いて」
「私にゾッコンなのは嬉しいけど、とても重く感じるわ」
「構わない」「僕は君に好きな人がいるのを知っている」
「は?」
「バレインタインのチョコを渡しているところを見てしまった」
「だから何よ」
「僕はそれを目の当たりにして、空虚な気持ちに陥った」
「あら、そう」
「それは果てしない絶望だった」
「良かったわ」
「しかし、僕は、君の好きな彼もひっくるめて好きになろうと思うんだ」
「。。。。」
「だから、君が誰を好きでいようが、僕をどう思おうが、僕は君が好きなのだ」
「。。。。」

「わかったから、どっか行って」