少年は風呂に入ろうとしたが、やめて、しばらくにイスに座った。
イスに座って彼は考えた。
イスに座らなければ良かったと、
彼は後悔した。
あの時、なぜ、一度手に取ったタオルを置いてまで、
わざとイスに座り直したのか。
あの時、なぜ、彼は誘いを断ったのか。
あの時、なぜ、涙が出てきたのか。
あの時、なぜ、素手でガラスを潰したのか。
あの時、なぜ、遅れる、と電話をできなかったのか。
あの時、なぜ、眠りに落ちたのか。
あの時、なぜ、靴下を履いていたのか。
あの時、なぜ、ためらったのか。
なぜ、あの絵を見てしまったのか。
なぜ、見ることをやめなかったのか。
なぜ、後ろから引っ張られたのか。
抵抗できなかったのか。
絵に、失望したのか。
不協和音をたてたのか。
海に落ちていったのか。
溺れるまで、くもを掴もうとしてたのか。
あの絵は、時がたち、彩度が薄れ、ホコリまみれになってたはずだった。
少年はその絵からホコリを懸命に落とそうとしてたのだと思う。
すると絵は蘇っていった。
秘密の暗号はもう解読できなくなっていても、
それは意図された暗号以上の意味合いを持つことになってしまっていたんだと思う。
その画を見てしまったがために、
少年の夜は長引いてしまった。
ただ、少年は絵から目を離そうとはしなかった。
途中で少年は気づいてしまった。
その画を描いたのは、自分であるということを。
そこから少年は、昼になるまで、眠ることができなかった。
昼になり、そこから死んだように寝つづけた。
少年が目を覚ますことは二度となかったが、
少年はやっと幸せになれた。