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tokyo, Japan
パソコンとお香があればだいたい幸せです。

2013年9月23日月曜日

走る、アデルノ。②


斎つの乙女、其れは近寄り難く、至らず吾しを。


たまに、僕は飼いならされたペットのように、どこの行き場もなく感じてしまうんだ。
昔は、まだ、違ったんだ。



アデルノは、自分が生まれ育った町から離れれば、そこには別の世界があると思っていた。町に多少の不満があっても、最終的には他がある、と落ち着くことができたのだ。

しかし、別の世界はなかった。

走っても、走っても、そこに広がっていたのは景色が違うだけの、同じ世界だった。


いや、それはもしかしたら間違っていたかもしれない。
いつもの彼の「過剰一般化」からくるものだったのかもしれない。


あの町を離れて、この町に来ても、僕が描いていた「世界」はなかった。
きっと、どこに行っても同じなんだろう。
僕は、どこに行ったって。

僕はこの「世界」のペットなんだもの。


アデルノは、田舎町に4人兄弟の次男として生まれた。
父親は町の郵便局に勤める勤勉家だった。
母を小学校の時に亡くしていたが、親や親戚などから十分すぎるほどの愛情を受けて育った。決して甘やかされたわけではなかったが、彼が「世界」を知るのには遅すぎた。


僕は、「この世」っていう場所が、素晴らしい場所で、理想郷の追求を許された場所だと思ってたんだ。「競争」よりも「協力」が優れ、弱者の生命にこそ美を許された世界だと思っていた。

けれど、実際は違うんだ。ただ夢も希望もない世界に、僕たちが装飾を施していただけなんだ。食い散らかされたトカゲはそのままで、いずれ土に還っていくだけだった。


「死ぬことは辛い、しかし、生きることはそれ以上に苦しい。」
偶然にも、アデルノは同年代にゴッホの発言と同じことを日記に記していた。

アデルノがゴッホのように歴史から認められることはなかった。
それは、彼にはゴッホのように心を許し合えた友人がいなかったからだろう。



「ただ、マリア。
彼女の存在で、その苦しさは幾らか紛れたのだ


アデルノはまた、早朝に家を出て、走り出した。
マリアがカトリーヌと早朝にランニングをするのは、月曜の朝だけだった。
いや、他の日にも走っていたのかもしれない。けれど、僕が彼女を見かけたのは少なくとも月曜だけだ。


いつもと同じ時間に、いつもと同じペースで、町をかけていくアデルノ。
天気は悪く、雨がいつ降り出してもおかしくなかった。

『今日こそは、マリアと話さねば!』

アデルノは、マリアと会話をしたことがなかった。
一方的に思いを抱いているだけで、会話すらしたことがなかった。

『確かに僕らは話したことはない、けれど、彼女は僕に大きく手を振ってくれたのだ!』

それは春の日、仕事の帰り道、にぎやかな大通りで彼女はカトリーヌと馬車に乗っていたんだ。僕の右横を馬車が通り過ぎて、女性がこちらに向かって笑顔で手を振っていると思ったら、それはマリアだったんだ。

『彼女は僕に微笑みながら、手を振ってくれたんだ!』

『一度も話したこともない、僕に!』

その日から、アデルノの「世界」は少し様相を変えたようだ。


そして、毎週月曜の朝すれ違うランニングの時に、話しかけようと。
『今日こそは、今日こそは!』と。


そして今日も。

マリアとカトリーヌは遠くから、いつものようにこちらに向かって走ってきたのだ。

『今日こそは、今日こそは!』


マリアはすれ違い様にいつも通り会釈した。


僕は、その瞬間に自分の汗の匂いに気づいてしまって、話しかけることをやめてしまったんだ。神聖な彼女を汚してしまうような気がして。



『愚か者、愚か者!ろくでなしめっ!』


汗なんかどうだっていいじゃないか。何をしてるんだ僕は。



2013年9月18日水曜日

走る、アデルノ。①


止まらぬ足、生は続きし。


冬の早朝に町を駆け抜ける男はアデルノであった。
筋は堅く、吐息は白く、血流は神経を圧していった。

走れば走るほど、走ることの苦痛や自分がいかに走ることに向いていないかが分かるだけだった。


東からの日の出に目を細め、
たかが日の出ごときに感銘を受け、立ち止まっている自分がいた。

朝焼けの中、歩道の向かいから若い女性二人が走ってきた。
それはマリアとクリスティーヌに他ならなかった。

アデルノはまた走り始めた。
彼女達とすれ違いざまに軽く会釈し、黙々と走り続けた。
僕は、決して愛想をふりまきはしない。それが僕のマリアに対する誠意だったんだ。


家に着き、シャワーを浴びて、職場に向かった。
アデルノは大手保険会社で販促の仕事をしていた。

僕の仕事は、本当にくだらないもので、正直僕がいてもいなくても会社は回ると思う。僕が社長なら間違いなく自分の部署から潰していくだろう。
神経質なアデルノにとって、デスクで過ごす毎日の10時間近くは苦痛でしかなかった。けれども、世間的には羨む職場であったし、賃金は決して悪くなかった。


「シチューと、クロワッサン。2フランと60サンチームね」

昼休みは職場に隣接されている食堂で昼食を取る。
その日の朝刊を読みながら、食堂で人間観察をするのだ。

あぁ彼はここの常連だ。たしか、経理の人間だな。
食堂のおばさんはいつも彼に贔屓する。いつもスープをサービスされているんだ。

アデルノも食堂の常連であった。しかし、食堂のおばさんから好かれることはなかった。

大きな声がすると思えば、営業のヤツらだ。
食堂でも幅を利かせている。

年寄りばかりで、皆覇気がない。
そう、ここはつまり、何も無い、ただの地獄なんだ。

2013年9月6日金曜日

映画「風立ちぬ」について



みなさんは、映画「風立ちぬ」を見られたでしょうか?
私は、つい先日一人で見に行きました。

理由は単純で、周囲の方々が賞賛されていたからです。


映画に1,800円?も払いたくないので、近くのイオンの最上階シネマのレイトショーで見ることにしました。

1,200円でした。


平日の夜、バスケをした後のレイトショーは格別でした。

僕はお腹が空いていたのと、周りに誰もいなかったので、
イオンでマグロ丼を買って、むしゃむしゃと食べながら見ました。

それで、肝心の中身なんですけど、とても良かったです。
ただ、自分が感動したのは、戦争と飛行機とかそういうテーマに関してではなく、
もっと別のところでした。


ネタバレを覚悟で、語らせてもらいますが、
僕が印象に残ったシーンが一つあります。

ヒロインと主人公が初めて出会って、
主人公がヒロインを助けて、去り際にヒロインが主人公に
「名前だけでも!」と言って名前を尋ねても
主人公は笑顔で手を振って去ってしまうというシーンです。

僕が主人公だったら、名前を名乗るだけでなく、
Facebookのアカウントまで教えてるでしょう。
それくらい、観てる時は「なんでだよ」って思いました。


ただ、後になってその「運命性」というか、
「儚さ」みたいなものにすごく美しさを感じたのです。


僕は、変に乙女みたいなところがあって、
そういう運命みたいなものを信じています。

それは結ばれる結ばれないとかそういうことではなく、
人と人が出会って、別れて、
人生って結局そんなもんだと思うわけですよ。


そういう意味だったりとかで、すごい普遍的な映画だなと感じたりしていて、
だから個人的にはこの作品で宮崎監督が引退しても、それはそれで良いなとか思ったりしていて。

いや、僕は全然ジブリには思い入れはないんですけどね。

ラピュタとか耳をすませばとか見る度にストーリー忘れますしね。


もう飽きたんで、今日はこの辺にしときます。

2013年9月3日火曜日

A氏の平凡な日常⑭


そうだ。





ゲームだ。


「~連絡遅くなってごめん、土曜の13時とかどう?~」


ゲームだ。


「~久しぶり、元気?~」


そう、


「Aさんは素直すぎるのよ」

結局、ゲームだ。


「いいよ」


ゲームだ。


「電気消して」


ゲーム。


「なんで、最近連絡してくれないの?」
「なんか、体調崩してた」


「そうなの?笑」


「バカにしてるでしょー?」
「うん」


「なんでー?」
「俺が聞きてーわ笑」
「そういうの興味ないのかと思ったー」


ゲームじゃねぇか。


「手つなごっか」


これも。


「私、彼氏できる気がしないわー」


あれも。


「あ、終電しらべなきゃ」

全部。

「Aさんて彼女いないの?」

全部。


「ダメ。それ以上したら、止まらなくなっちゃう」

いっそ、

生けること、

「うん、できれば新宿がいいな!」


それこそすべて。

「はじめまして」

ゲームだ。





パチン!
「はい、カットォ」
「おつかれさまでーす、北川さん、ファイナルでーす」

「はい、おつかれさま笑」
「あぁどうも」

「皆さん記念撮影するんで集まってくださーい」
「これ、全員入んのか?笑」

「雲行き怪しくなってきたんでパッパと済ませますよー」
「北川ぁ、せっかくラストなんだから笑えよ!笑」


「はい、チーズ!」


「北川くん、お疲れ」
「監督、本当にありがとうございました」
「風邪引かないように、すぐシャワー浴びて来なさい」
「はい」



僕は何故「あれ」で監督からOKが出たのかが分からない。
達成感というより、疑問がまず残った。



「これ、本当は監督として失格なのかもしれないんだけど、最後のA氏のシーンに自分の中で答えがなかったの」「君を試したというか、君の演技を見てたら君が創りだしたものを純粋に見てみたくなったの」
「はぁ」
「おそらく、この作品は賛否両論だと思うし、大した興行収入は見込めないよ」「だけど、君は引き受けてくれた」「本当にありがとう」
「いえ、とんでもないです」「こんな大役に抜擢していただいて光栄でした」
「よくA氏を演じきってくれた」
「ご指導ありがとうございました」


「失礼します!」「監督、シーンのセッティング整いました!」
「おう、そうか」
「どうぞ」
「また、後でな」「今日の打ち上げ来るよね?」
「ごめんなさい」
「ちぇ、やっぱ北川くんはそうでなくちゃな、はは」
「じゃ、また」
「ありがとうございます」

バタン/


「ふーーー」

あ、煙草が切れてるや。





パンポン♪






『未読メールが一件あります。』












from:宮本亜衣
『今日、打ち上げ行く?(ビール)』



「だから、」
「行かないっての」



終。