止まらぬ足、生は続きし。
冬の早朝に町を駆け抜ける男はアデルノであった。
筋は堅く、吐息は白く、血流は神経を圧していった。
走れば走るほど、走ることの苦痛や自分がいかに走ることに向いていないかが分かるだけだった。
東からの日の出に目を細め、
たかが日の出ごときに感銘を受け、立ち止まっている自分がいた。
朝焼けの中、歩道の向かいから若い女性二人が走ってきた。
それはマリアとクリスティーヌに他ならなかった。
アデルノはまた走り始めた。
彼女達とすれ違いざまに軽く会釈し、黙々と走り続けた。
僕は、決して愛想をふりまきはしない。それが僕のマリアに対する誠意だったんだ。
家に着き、シャワーを浴びて、職場に向かった。
アデルノは大手保険会社で販促の仕事をしていた。
僕の仕事は、本当にくだらないもので、正直僕がいてもいなくても会社は回ると思う。僕が社長なら間違いなく自分の部署から潰していくだろう。
神経質なアデルノにとって、デスクで過ごす毎日の10時間近くは苦痛でしかなかった。けれども、世間的には羨む職場であったし、賃金は決して悪くなかった。
「シチューと、クロワッサン。2フランと60サンチームね」
昼休みは職場に隣接されている食堂で昼食を取る。
その日の朝刊を読みながら、食堂で人間観察をするのだ。
あぁ彼はここの常連だ。たしか、経理の人間だな。
食堂のおばさんはいつも彼に贔屓する。いつもスープをサービスされているんだ。
アデルノも食堂の常連であった。しかし、食堂のおばさんから好かれることはなかった。
大きな声がすると思えば、営業のヤツらだ。
食堂でも幅を利かせている。
年寄りばかりで、皆覇気がない。
そう、ここはつまり、何も無い、ただの地獄なんだ。
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