昼頃、A氏は目覚めた。
太陽の日差しがとても眩しかった。
ライトの点滅するケータイを取ると、通販サイトからの広告メールなどが来ていた。
それらを既読にし、またしばらくベッドで目を閉じた。
昨晩のハイボールが少しの頭痛を催している気がした。
A氏は大手金融企業に勤める32歳のサラリーマンである。
役職こそないが、そこそこな収入で十分に家族を養えるような収入を得ていた。
しかし、彼に家族はいなかった。
彼自身、家族を望んだりもしたが、彼の気難しい性格(少なくとも本人はそう思っていた)が結婚を遠ざけているようだった。
彼はベッドから起き上がると、洗濯物をまとめ、洗濯機を回した。
テレビをつけ、菓子パンをかじりながら、チャンネルを回した。
ひとまず好きな芸人が出演しているバラエティでチャンネルを止めた。
ゲストに好きなアイドルが出ていたというのも少なからずあった。
CM中にケータイがメールを受信した。
それは見知らぬ宛先からであった。
「昨日ご一緒させてもらった、K子です(絵文字)
昨日はありがとうございました(絵文字)
Aさんとはあんまりお話できなかったので、もしよかったらまたお会いしたいです(絵文字)」
A氏は昨日、同僚との合コンに参加していた。
頻繁にそういった類のものに参加しているわけではないが、
A氏は前よりも少し積極的になっていた。
その合コンではK子とA氏とほとんど話さなかった。
A氏のK子の印象は、そんなに悪くなかった。
しかし、正直言って惹かれるようなものでもなかった。
A氏は人間観察をする癖があった。
A氏の中で人種をある程度感覚的にカテゴライズしていた。
例外が現れると、カテゴリーを増やしていった。
A氏は人付き合いがあまり上手な方ではなかったので、
自分なりにこういった工夫をして、気苦労を減らしていた。
K子はそういう意味で未分類の人種だった。
おおよその見当はつくが、まだ分類してしまうには早すぎた。
K子からのメールは嬉しいものだったが、A氏にとっては気苦労の方が大きかった。
A氏は過去に何人かの女性と交際したことがあったが、
その都度彼は気苦労していた。付き合っている最中は気苦労に感じなくとも、終えてみるとそれは気苦労だった。
それは別に女性関係に限ったことではなく、人生全般にA氏の気苦労は耐えなかった。
それはまるで、人生の多くを自殺を留まることに費やしてしまうようなカフカのようだった。
A氏はそんな自分を客観的に認識しているつもりであった。
そして、悲観的ではなかったが変えようという気があった。
なぜなら、このままでは結婚でさえろくに出来ないと危機感を抱いていたからだ。
A氏は結婚については興味がなかったが、子供には興味があった。
自分の子供が、自分の気苦労を軽減させてくれる唯一の存在になりうるのではないかと思っていた。
A氏はそういったごちゃごちゃした思考を振り払い、
K子に返信した。そのメールは今度ふたりで食事に行きましょうという旨のものだった。
洗濯機がピーと終了の合図を鳴らした。
その時A氏は脱ぎっぱなしの靴下を入れ忘れたことに気づいた。
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