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2012年9月21日金曜日

A氏の平凡な日常⑦

静寂と切なくヒヤリとした朝がA氏を襲い目が覚めたが、
A氏は気づかぬフリをして寝返りを打った。


部屋の冷たい空気と灰色の空と昨晩のウィスキーの微かな香り。
そして、冷えきった白色のシーツ。


そのうち、ステレオからアラームがかかり始めた。
クラシックが流れ始めた途端に、
A氏は体を起こしてアラームを止めた。
A氏は大きく息を吐き、身体中に寒さを感じた。

もう一度布団にくるまった彼の頭脳は、
無意識に現状を整理した。


そして、K子との日々が終わったことを再認識した。


血がどんどん溢れ、滴り、温もりを失い、固まり、冷えきって、濃い紫色になっていくような、
そんな感覚だった。


冷えきった冬の朝に、そんな血の跡はA氏を空虚な精神状態に陥らせていた。


愛の言葉をささやき、口づけを交わし、抱き合い、二人で眠る日々にあったあの温かさは失われてしまったのだった。


ストーブの電源を入れ、また布団に戻った。


脳裏にはまだ、K子と交わした汗や唾液などの決してきれいとは言えない体液の匂いが残っていた。
そんな不潔なものでさえ、今の彼には温かいものに感じられた。


僕は、なんで、こんなに悲しいんだろう。
そう考えた瞬間に反射的に脳はそう考えることから避けた。


僕とK子は、なんで、こうなったんだろうか。


ストーブのおかげで部屋は少しずつ暖まってきた。

A氏はK子との日々をハイライトで何度も再生した。


そして、再生する度に、なぜかそのストーリーは変わっていった。


事象としての過去は変わることはなかったが、
主体的感覚による過去は無限に変わりえた。



窓の結露が外の灰色の景色を歪ませている。

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