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2012年9月15日土曜日

A氏の平凡な日常⑥

:K子と早く会いたい(絵文字):

A氏はそんな文章を電波を通して送ってしまえるようになっていた
彼女に夢中になっている時は彼が唯一愚かになれる瞬間だった。


:私もだよ(絵文字):
:仕事お互いがんばろうね(絵文字):

社内のエレベーターでA氏は幸せそうだった。
そして、バイタリティに溢れていた。



「なに、彼女からのメール?笑」
「やめてくださいよ笑」
「嬉しそうだなーお前」
「今日どこにします?」

カテゴライズやら、冷めた見方は彼からどこかへ行ってしまったようだった。



「いらっしゃいませー」「2名様ご案内でーす」


なんともいえない充実感に包まれ、店内の音楽も心地よかった。
定食でサラダから食べる習慣さえも、どこかに行ってしまった。


「俺あの店員さんタイプだわ」
「新しい娘ですかね」
「ショートヘアーっていいよなぁ」
「派遣の娘もショートヘアーですよね」
「あれは違う」「ショートヘアーは選ばれたものしか似合わん」
「あはは」
「おお、すまんな」

A氏は笑いながら上司のグラスに冷水を注いだ。
K子のショートヘアーを想像したが、うまくいかなかった。


「ありがとうございましたー」
「ごちそうさまです」

「ごちそうさま」


「あの娘、俺にめっちゃ笑顔でお釣り渡してきたぞ」
「接客マナーですよ笑」
「いや、あれは違った」
「あはは」

「明日もあそこな」



愛は、彼に欠けていた人生における1パーツであり、経験から学ぶ傾向の彼にとって、何よりも予想を裏切られた要素の一つとなった。
愛さえも結局科学的で合理的なものであるというもはや信念に近かった彼の考えは頭の海底に沈みきっていた。
彼が考えていた愛というのは結局のところ彼自身に包括されていたもので、それは彼次第だった。


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